「京都モンテッソーリ教師養成コース」の設立50周年記念研修会にて講演/前学園長ブログ - 一貫教育の【自由学園】/ 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上

「京都モンテッソーリ教師養成コース」の設立50周年記念研修会にて講演/前学園長ブログ - 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上【一貫教育の自由学園】

前学園長ブログ

「京都モンテッソーリ教師養成コース」の設立50周年記念研修会にて講演

2023年8月23日

7月29日、「京都モンテッソーリ教師養成コース」の設立50周年記念研修会に講師としてお招きを受け、「いのちへの信頼」というテーマでお話しする機会をいただきました。今回私自身あらためてモンテッソーリについて学び、様々な発見もあり、たいへん貴重な機会となりました。

モンテッソーリ教育と自由学園は、共に世界に新教育運動が広がる時代背景の中で誕生し、子ども自身が持つ自ら学び成長する力を信頼し、子どもの自由と主体性を大切にするという共通の理念を持っています。ここに親和性を感じるご家庭も多く、これまでもモンテッソーリ教育で学んだ多くの子どもたちが自由学園で学んでいます。

今回お声がけいただいた「京都モンテッソーリ教師養成コース」が運営する「深草こどもの家」も、そのような自由学園とのつながりを持つ園の一つです。講演当日も、深草こどもの家で学び、現在自由学園に在校している男子部生B君が、ご両親と共に駆けつけてくれました。また京都友の会とのつながりも深く、毎年の保護者からの依頼で、子どもの生活リズムと4回食などについての講習会が行われていると伺いました。

モンテッソーリ(1870-1952)と羽仁もと子(1873-1957)はほとんど同じ時代を生き、共にキリスト教信仰を土台に持ち、それぞれの分野は医学とジャーナリズムと異なりますが共に20世紀初頭における女性の社会進出の先駆けとして活動しました。そして共に教育の分野で活躍しています。

モンテッソーリ教育が日本に初めて紹介されたのは1912年ですが、驚くべきことに2年後の1914年(大正3年)という早い時期に、羽仁夫妻は『婦人之友』誌上でモンテッソーリ教育を紹介しています。そこにはモンテッソーリの「子供を本当に自由に育てるには、まず子供に独立することを教えなければならない。それは独立し得る者でなくしては、真の自由は得られないからである」という言葉も引用されています。

当時、もと子は『婦人之友』を通じて、子どもには「自治を教えたし」(1910)、「めいめい年齢相応に、自主の人」(1910)に、「独立自活といふことを、人間生活の大切な最初の出発点」(1910)に、と繰り返し訴えていました。「真の自由」は生活の「独立」から、というこのモンテッソーリの思想と実践にふれて、羽仁夫妻は意を強くしたに違いありません。

またモンテッソーリと羽仁もと子が対面したと思われる接点が、1932年8月、世界に戦争の足音が広がり始める不穏な状況の中、ニースで行われた第6回新教育国際会議です。この会議はモンテッソーリ協会の第2回国際会議と共同開催されており、10日ほどの会期中、モンテッソーリ教育の実践報告が毎日行われていたことから、ここで2人は出会っていたかもしれません。

これらの会議の翌月の連盟の機関紙「The New Era」1932年9月号には、モンテッソーリによる平和論「Disarmament in Education」、ドルトンプラン創設者パーカストの講演録「The Individual Responsibility and the New Society」と共に、会議を終えての「日本代表の印象」として羽仁もと子の所感が掲載されています。

もと子は会議の講演「The School as a Social Unit and Factorin the Community」において「教育を通じて新社会の創造を」と訴えましたが、この所感の最後に「学校教育から身を引いてでも平和運動に参加すべきかと思うことがあったが、この世界の教育者のネットワークを通じて、平和をつくる理想の実現を図ることができると確信した」と述べています。

一方モンテッソーリの文章は「Disarmament in Education」、「教育における軍縮」「教育における武装解除」というタイトルです。モンテッソーリはここで、われわれ教育者は国家間の戦争とは異なるもう一つの戦争を問題にしなければならないと述べ、大人が子どもを否定し、強者として、独裁者として子どもに向かう姿勢そのものが、子どもの魂に対して大人が仕掛けている「戦争」であると訴えます。
そして大人は子どもに向けた武器を捨て、平和への武装解除を行わなければいけないと呼びかけます。さらに真の教育改革は「子どもに対する根本的な態度を変え、子どもの性格と善良さを信じて愛をもって子どもに接することのみ」であり、「自分が愛されていると感じる子どもは、新しい自分になるために惜しむことなく力を注ぐようになる」と述べています。

これは「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」という後のユネスコ憲章に通じる言葉です。

ユニセフなどの国際比較調査で繰り返し指摘される日本の子どもの自己肯定感の低さ、子どもの自殺率の高さを思うとき、この「Disarmament in Education」というモンテッソーリの言葉には深く考えさせられました。私たち大人は今現在もなお、子どもたちに「武器」を突き付け、「戦争」を仕掛けているのです。まずこの事実に真剣に向き合い、子どものいのちを守るために、「武装解除」を進めることが必要です。

子どもたちの生き生きとした成長のために、日本の教育は、子どもを信頼し、一人格として尊重し、子ども自身を学びの主体とする方向に根本的に舵を切り直さなければいけないとあらためて強く思いました。

研修会の講演では、現在の自由学園の教育実践、羽仁もと子とモンテッソーリの接点や思想的共通点、2人の訴えから私たちが受け継ぐべきことなどについてお話ししました。講演後、会場の皆さんから「自由学園とモンテッソーリ教育が似ていると思っていたが、その背景が分かった」「日本にもこの時代の羽仁もと子のような女性がいたことにとても驚き興味を持った」などの感想をいただきました。

中でも最も印象に残ったのは「モンテッソーリと自由学園の土台にキリスト教があるという話だったが、自分は僧侶としてモンテッソーリ教育に携わっている。モンテッソーリと羽仁もと子が子どもの中に見た『愛』を、私は『仏性』ととらえ、日々子どもに向き合っている」という言葉です。宗教教育をより広く「コスミック教育」と語ったモンテッソーリの、深い思いに触れさせていただく言葉でした。

貴重な機会をくださった教員研修会の実行委員会の皆さま、そして研修会参加者の皆さまに、心より感謝を申し上げます。また会場に足を運んでくださった深草子どもの家出身の自由学園在校生B君とご家族の皆さまにも心よりお礼を申し上げます。ありがとうございました。

 

2023年8月4日 高橋和也(自由学園学園長)

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