今週の1冊『家族写真の歴史民俗学』/図書館 お知らせ・近況 - 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上【一貫教育の自由学園】
図書館 お知らせ・近況
2025年5月12日
2025年5月12日『家族写真の歴史民俗学』川村邦光著 ミネルヴァ書房皆さんはこれまでにどのような「家族写真」を撮ってきましたか?この本を読むと、自分の家の「家族アルバム」を引っ張り出して見直してみたくなります。日本に写真技術が紹介されたのは幕末。1860年代に上野彦馬が長崎で撮影した「オランダ通詞と妻」が最古の現存する家族写真だそうです。ただ、当時は藩主や幕末の志士などの肖像写真が中心であり、「家族写真」が中流階級にまで普及し始めるのは1890年代、明治中期以降のこと。1889年に大日本帝国憲法公布、皇室典範が制定され、長男が家督となる家族制度がまず皇室で確立しました。1890年に教育勅語発布。「忠」「孝」の概念をを基軸とした、夫婦単位の儒教的な家族道徳が唱導された時期でもあります。一方で、バーネットの『小公子』が若松賤子によって翻訳され、「家庭の天使」と喩えられた家庭像が登場します。著者は「国家の基盤としての家・家族イメージと子どもを中心とした家庭イメージとを接合するところに、家族写真は誕生した」と書いています。家族写真の1枚1枚はきわめてプライベートなものでありながら、その構図や表象には撮影者や被写体の意識が反映されており、さらにその意識は時代の「家族観」(国家や社会が共有する家族の規範や欲望)と深く関わっているというのです。そうした家族写真は、繰り返し眺められ、ときに礼拝されながら、家族の記憶を再構成しつづけ、やがてその家族を越えて、時代の記録となっていくのです。家族写真の普及にしたがって、その形に芸術性を求める動きや、風刺や異化効果を狙う「反家族写真」の紹介も興味深いです。現在の家族写真は、何を映しだしているのでしょう。なお、本書コラムには、与謝野晶子と鉄幹の結婚当時の写真(1901年)も。同年に創立者の羽仁もと子・吉一も結婚記念写真を残しており、デジタルアーカイブ「自由学園100年+」で確認できます。羽仁夫妻は自分たちの結婚写真の構図をどのように決めたのでしょう?
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