11月30日午前10時より,紀北町役場に於いて,関係者列席のもと「紀北町と学校法人自由学園の連携による森林整備等に関する協定書」締結を記念した調印式を挙行しました.半世紀に渡る海山植林地の分収育林契約*期間の満了に伴い,今後の更なる発展を見据えた新協定締結による存続が決定し,紀北町・尾上寿一町長,自由学園・高橋和也学園長,立会人として長年に渡り海山での植林活動にご尽力いただいている速水林業代表の速水亨様の3者による記念調印が行われました.
自由学園における植林活動は学園創立30周年記念事業の一環として始められ,1950年に最初の植林地である「名栗植林地」が埼玉県名栗村(現・飯能市)に開設され,男子部生徒の活動場所となりました.その後1966年に男子最高学部学生のための活動場所として,「海山植林地」が三重県海山町(現・紀北町)に開設されました.以来,春・夏・冬の長期休みなどに,速水林業から提供された木材によって建てられた林内の作業小屋に滞在し,育林ステージに合わせた施業が半世紀に渡り行われてきました.しかしながら,2014年に活動が中止(経緯は『学園新聞』688号参照)され,植林地は一旦町へ返還の方向となりました.その後,子供のための複合施設である「自由学園みらいかん」への海山材の活用や,新木工教室の建設など,全学的な「木の学び」の推進を受け,2020年1月から環境文化創造センターを中心に,地元の方々のご意見を伺いつつ,植林地全体の今後の在り方についての検討を開始しました.
その中で,海山植林地に関しては,速水林業の速水亨様をはじめ,森林組合おわせ,三重県尾鷲農林水産事務所など関係機関の方々からもご助言をいただきつつ,学内で種々検討の結果,①収穫期に入った植林地のヒノキは校舎建築・改修等の用材として活用し,尾鷲ヒノキの価値の発信にも寄与すべき点,②周辺地域を含めた当地の環境は教育・研究フィールドとして魅力的であり,半世紀の地元との関係をより発展させるべき点を挙げ,2021年4月に理事会の承認を得て紀北町と契約更新に向けた具体的協議に入りました.協議の結果,従来の分収育林契約の更新ではなく,既に学園と埼玉県飯能市との間でも実績のある「森林整備等に関する協定」締結の方向にまとまり,契約期間の満了を迎える2021年8月4日付で新協定締結の運びとなりました.
記念調印式は,三重県尾鷲農林水産事務所など関係機関の方々にもご臨席いただき,岩見建志紀北町農林水産課長司会のもと,開式・出席者紹介,協定の概要説明,紀北町長挨拶,学校法人自由学園学園長挨拶,立会人速水林業代表挨拶,学生代表の報告,協定記念調印,記念撮影,質疑応答(記者の方々から)の順で執り行われました.
はじめに尾上寿一町長からは「自由学園は1966年から分収育林契約を結び,本当に長きにわたり森林を通じて紀北町と繋がって来ている.地元では町有林がFSC認証を取得し,尾鷲ヒノキが日本農業遺産に認定された.自由学園みらいかんへの木材の活用も大変ありがたいことであった.今後も自由学園を通じて都市部とも繋がっていきたい.自由学園と紀北町のご縁が今回の協定をもってずっと続いていくことを期待している.速水様には今回の協定実現にお骨折りいただいたことに感謝している.」というご挨拶がありました.
高橋和也学園長からは「このような場を設けていただき感謝申し上げる.私自身も学生の頃に山に入って枝打ちなどを行なった.その時,速水亨さんのお父様の勉さんから,君たちの今の仕事で将来の森の姿が決まってくるということを言われたのが印象に残っている.こうして自分たちが育てた山がここにあるということは,私たちの心を豊かにすることだと昨日山を歩いて改めて感じた.一度50年の節目に学生の活動を終えるということになったが,学校としても新たな山の価値を見出して,100年の森を目指して発展させていくという判断をした.これからも地元の方々の関係をより良いものにしていきたい」とご挨拶しました.
速水亨様からは「姉二人が自由学園に通っていたこともあり,父が熱心に面倒をみていた.森林はその場所から動かすことができないものだが,森林には皆が集まることができる良さがある.森林は木材生産の場だけではなくなっている.この海山植林地を核にして自由学園と紀北町がいろいろな形で繋がっていく期待をもてる協定だと思う.自由学園も紀北町も小さな学校また町だが,小さいながらそれぞれ宝石のように輝くものがある.是非これからも両者が手を取り合っていっていただきたい」とご挨拶がありました.
続いて学生報告として,学生代表として同行した最高学部4年の鈴木祐太郎さんから,海山植林地での気象観測の再開と,海山地域での水環境の調査に着手したことについて,同じく3年の服部さんからは,尾鷲ヒノキと海山地域をイメージしたロゴマークのデザインをはじめ記念調印書の製作についてそれぞれ報告しました.詳しい内容はこちらに掲載しています.
その後,記念調印が行われ,出席者による記念撮影が行われました.記念調印書はFSC認証紙を使用て印刷し,フレームは海山植林地のヒノキと,南沢で伐ったヤマザクラを使用したものを学園で準備しました.紀北町からは記念品として,紀北町を代表する清流の銚子川に関する書籍,伊勢志摩サミットでも用いられたペン皿をご寄贈いただきました.学園からは別途,『自由学園一〇〇年史』を紀北町海山図書室をはじめ,尾鷲市立図書館,三重県立熊野古道センター図書資料室に寄贈しました.
「自由学園の森(海山植林地)」は三重県紀北町中里字久瀬谷に位置し,新協定による面積は植林実績に基づき4ブロック15.06ヘクタールとなり,分収割合は紀北町3:自由学園7です.有効期間は2031年までの10年間で,相互に申し出がない場合は以降自動更新されます.
森林の持つ多面的機能の発揮及び森林環境教育の推進を図ることを目的に,具体的な連携事項は以下の通りです.
1. 森林整備等に関する事項
(1)森林活動・管理,(2)奉仕活動
2. 林業体験学習及び森林環境教育に関する事項
(1)林業体験学習,(2)森林環境教育
3. その他森林の多角的利用に関する事項
(1)林産物利用,(2)運動・レクリエーション,(3)その他
今回の新協定締結による「自由学園の森(海山植林地)」の存続については,かつての定期的な学生による労働の再開ではなく,今後の海山地域での様々な活動の可能性を将来に引き継ぐものです.上記,学生報告の通り,既に最高学部生による研究が再開しており,今後の全学的な教育・研究面での活用,地域交流の促進を計画しています.また中部・関西圏を中心に関係者の方々などにも広く関心を寄せていただけるような情報発信を予定しています.
なお記念調印式前日の29日には,紀北町農林水産課の方々に小屋周辺の林内をご視察いただきました.
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*分収育林制度:戦中に荒廃した全国の山林において,スギやヒノキなど成長が早く経済的価値が高い針葉樹への置き換えを加速し,また民間の資源を投入する目的で,国や自治体が所有する山林(公有林)を契約者に貸し出し,一定期間育林をさせ,伐期を迎えた際に収穫し,原木を出荷して出た収益を予め契約で定めた割合(通常は所有者3:契約者7)で分収するという制度.制度開始当初は収益が出ることが前提となっていたが,木材価格の低迷により収益を見通せない状況が常態化し,収穫されないままの分収林が全国各地に広がる結果を招いた.自由学園では,そのような社会情勢の中で,必ずしも収益を目的とせず,林内での教育・研究,木材の自己消費へとその目的が変遷して来た.『自由学園一〇〇年史』第Ⅲ部第6章参照.
文・写真:遠藤智史・吉川慎平・鈴木康平(環境文化創造センター)