今週は、T.K.先生からです。
ブログのバックナンバーからは、過去の「夏休みすいせん図書」、今年1学期に掲載した「今週の1冊」もご覧になれます。「2022 夏 すいせん図書【1】」 は こちら。
【すいせん図書 2022.7.11】
『てぶくろ』エウゲーニー・M.ラチョフえ,うちだ りさこやく 福音館書店
7月2日はウクライナ民話「てぶくろ」で知られるロシアの絵本作家エウゲーニー・M・ラチョフの命日でした。 「てぶくろ」はロシアのウクライナ侵攻以降、注目されている絵本です。
雪の森の中でおじいさんが片方落とした温かそうな手袋(ミトン)をこねずみが見つけ、その中で暮らし始めます。そこにかえる、うさぎ、きつね、おおかみ、いのししが次々とやってきて「入れて」「どうぞ」を繰り返し、共同生活の住人が増えていきます。
手袋にはハシゴがかけられ、ひさしが伸びて、煙突からは煙も上がり、窓も付き、パンパンに膨らみます。 あり得ない設定であるにも関わらず、その展開の面白さと絵の素晴らしさから、すっかりその不思議な世界に引き込まれてしまいます。
自然界では食べる食べられるという関係にある動物たちですが、この作品では、温かい小さな手袋の中、様々な生き物たちが肩を寄せ合い共に寒さをしのぎ共に生きる世界がユーモラスに描かれます。
最後にくま(ロシアの国獣)が木の枝をぱきぱき折ってやってきます。
「だれだ てぶくろにすんでいるのは?」
「くいしんぼねずみとぴょんぴょんがえるとはやあしうさぎとおしゃれぎつねとはいいろおおかみときばもちいのしし。あなたは?」
「うおーうおー。のっそりぐまだ。わしもいれてくれ」
「とんでもない。まんいんです」
「いや、どうしてもはいるよ」
「しかたがない。でも、ほんのはじっこにしてくださいよ」
互いにフラットな関係の中、押し問答の末に「しかたがない。でも、ほんのはじっこにしてくださいよ」というやりとりの素晴らしさが今、心にしみます。 「てぶくろ」には平和な世界への願いが込められています。
しかし物語は、手袋を落としたことに気がついたおじいさんが、子犬と共に戻って来ると急展開します。 今読み直すととても考えさせられる作品です。
絵本作家ラチョフは1906年に生まれ1997年7月2日に101歳で亡くなりました。キーウの美術研究所でも学んでおり、「てぶくろ」は、ウクライナ民話を題材にした1951年の作品です。「てぶくろ」の中にもウクライナの伝統的な装飾模様や民族衣装が描き込まれています。
福音館書店からうちだりさこさんの素晴らしい翻訳で日本語版が出版されたのは1965年。我が家の子どもたちが読んだ「てぶくろ」は「1995年第90刷」のものです。
ラチョフの作品は現在世界中で親しまれていますが、生前には個展は3回しか行われず、そのうち2回はモスクワで、1回は日本(1968年)で行われたそうです。長く日本で親しまれてきたことがわかります。
ラチョフは次のような印象的な言葉を残しています。
「私は動物たちが大好きです。動物は、人と同じように、感じたり考えたりします。そして彼らの目も変わり、時には陽気で、時には悲しくなります。目を通してすべてを見ることができます。」
尚、9月4日まで安曇野ちひろ美術館で、同館所蔵の「てぶくろ」の原画が公開されています。https://chihiro.jp/azumino/exhibitions/71687/
ラチェフについては主として以下を参考にしました。 https://prodetlit.ru/index.php/%D0%A0%D0%B0%D1%87%D1%91%D0%B2_%D0%95%D0%B2%D0%B3%D0%B5%D0%BD%D0%B8%D0%B9_%D0%9C%D0%B8%D1%85%D0%B0%D0%B9%D0%BB%D0%BE%D0%B2%D0%B8%D1%87